パンダやトラ、サイなど、動物園や図鑑でおなじみの動物の多くが「絶滅危惧種」に指定されていることをご存知でしょうか。
ニュースや教科書で目にする機会は多いものの、「絶滅危惧種」が具体的に何を意味するのか、どうやって決められているのかまでは、意外と知られていません。
この記事では、絶滅危惧種の基本的な意味や分類の仕組み、動物が絶滅の危機に陥る原因から、代表的な絶滅危惧種、そして私たちが今日からできることまで、わかりやすく解説します。
絶滅危惧種とは?

絶滅危惧種の意味
絶滅危惧種とは、このまま何も対策をしなければ、近い将来野生で絶滅してしまうおそれが高いと評価された生物のことです。
開発による生息地の減少や乱獲、環境汚染、気候変動など、さまざまな要因によって個体数が減少している種が、この分類の対象になります。
動物だけでなく、植物や菌類なども含めて評価されており、世界にはすでに4万9,000種以上の生物が、絶滅のおそれが特に高いカテゴリーに記載されています。
「絶滅」と「絶滅危惧」はどう違う?
「絶滅」と「絶滅危惧」は似た言葉ですが、意味は大きく異なります。
「絶滅」は、その種の最後の1個体が死亡し、地球上から完全にいなくなってしまった状態を指します。一方「絶滅危惧」は、まだ個体は存在しているものの、このままでは近い将来絶滅してしまう可能性が高いと評価された状態です。
つまり絶滅危惧種は、「絶滅してしまった種」ではなく、「まだ間に合う、対策すべき種」だといえます。今の段階で保全活動を行うことができれば、個体数を回復させ、絶滅を防げる可能性が残されているのです。
絶滅危惧種はどうやって決められる?

IUCNレッドリストとは?
絶滅危惧種を判定する国際的な基準となっているのが、IUCN(国際自然保護連合)が作成する「レッドリスト」です。1964年に創設されたこのリストは、動物や植物、菌類について、地球規模での保全状況をまとめた世界で最も包括的な情報源とされています。
IUCNでは、それぞれの分野の専門家が野生生物の個体数や生息状況を調査し、種ごとに絶滅の危険度を評価します。この評価は一度きりではなく、定期的に見直しが行われ、個体数の減少が確認されればより深刻なランクに、回復が確認されれば低いランクへと変更されることもあります。
日本の環境省が作成する国内版のレッドリストも、基本的にこのIUCNの評価基準を参考にしています。
絶滅危惧種にはいくつかのカテゴリーがある
IUCNのレッドリストでは、生物を絶滅の危険度に応じていくつかのカテゴリーに分類しています。主なものは次のとおりです。
- 絶滅(EX):最後の1個体まで死亡が確認された種
- 野生絶滅(EW):野生ではいなくなり、飼育下でのみ存続している種
- 絶滅危惧IA類・近絶滅種(CR):ごく近い将来、野生での絶滅の危険性が極めて高い種
- 絶滅危惧IB類・絶滅危惧種(EN):CRほどではないが、近い将来の絶滅の危険性が高い種
- 絶滅危惧II類・危急種(VU):絶滅の危険が増大しており、対策をしなければ上位ランクに移行する可能性がある種
- 準絶滅危惧(NT):現時点では絶滅危惧に該当しないが、今後その恐れが高まる可能性がある種
- 低懸念(LC):現時点で絶滅の危険性が低いと判断された種
一般に「絶滅危惧種」と呼ばれるのは、このうちCR・EN・VUの3つのカテゴリーに分類された種を指します。
日本の環境省レッドリストでも、これらはそれぞれ絶滅危惧IA類・IB類・II類として、同様の枠組みで評価されています。
なぜ動物は絶滅危惧種になるの?

1. 生息地の減少
森林伐採や農地・宅地への開発によって、動物たちが暮らす生息地そのものが失われることは、絶滅危惧種が増える最も大きな要因のひとつです。
生息地が縮小・分断されると、餌や繁殖相手を見つけにくくなり、個体数の減少につながります。
2. 乱獲・密猟
食用や毛皮、装飾品、伝統薬などを目的とした乱獲・密猟も、多くの動物を絶滅の危機に追い込んでいます。
特にセンザンコウやサイの角、ゾウの牙などは高値で取引されることから、規制があるにもかかわらず違法な密猟や密輸が後を絶ちません。
3. 地球温暖化・気候変動
気候変動による気温上昇や海面上昇、生息環境の変化も、動物の生存を脅かす要因です。
海氷の減少で狩りの場を失うホッキョクグマや、海水温の上昇に影響を受けるウミガメなど、気候変動の影響を強く受ける種は少なくありません。
また、この結果、ホッキョクグマとハイイログマ、イッカクとシロイルカなどの一部の生き物ではなどと生息域の被りが出てきて、自然界で交雑を起こり遺伝子汚染も問題となっています。
4. 外来種による影響
人間の活動によって本来の生息地とは異なる場所に持ち込まれた外来種が、在来の動物を捕食したり、生息環境や餌を奪い合ったりすることで、在来種の個体数が減少するケースもあります。
沖縄島北部に生息するヤンバルクイナも、外来種であるマングースの影響を大きく受けてきました。
悲しい出来事だけではなく、2024年9月3日には、世界自然遺産の奄美大島(鹿児島県)において、特定外来生物「フイリマングース」の根絶を宣言を発表しています。
5. 環境汚染
大気汚染や水質汚染、プラスチックごみによる海洋汚染なども、野生動物にとって深刻な脅威です。ウミガメがビニール袋を餌と誤って飲み込んでしまう事例など、人間の生活から出るごみが野生動物の命を奪うケースも報告されています。
6. 病気や感染症
野生動物の間で広がる感染症や、人間が飼育するペットなどから持ち込まれる病気も、個体数減少の一因になります。
イリオモテヤマネコでは、適切に管理されていない飼い猫との接触によって、猫免疫不全ウイルス感染症などが伝染するリスクが指摘されています。
どんな動物が絶滅危惧種になっている?
センザンコウ

うろこを持つ珍しい哺乳類であるセンザンコウは、アジアとアフリカに生息する8種すべてが絶滅の危機に瀕しています。うろこや肉がアジアを中心に高値で取引されることから、世界で最も密猟・密輸されている哺乳類ともいわれています。


ゴリラ

マウンテンゴリラを除くゴリラの多くは、IUCNレッドリストで最も深刻なカテゴリーである「近絶滅種(CR)」に分類されています。生息地の減少や密猟、そしてエボラ出血熱などの感染症が、個体数減少の大きな要因になっています。
ユキヒョウ

中央アジアの山岳地帯に生息するユキヒョウは、美しい毛皮を目的とした密猟や、開発・気候変動による生息地の減少により、絶滅の危機にさらされています。
標高の高い岩場を好む習性から生態の全容がつかみにくく、保全の難しさも指摘されている動物です。
サイ

サイの仲間は、角が伝統薬や装飾品として高値で取引されることから、深刻な密猟の被害を受けてきました。クロサイは特に危機的な状況にあるとされ、インドサイやジャワサイなど、種によって絶滅の危険度は異なりますが、いずれも保護の取り組みが続けられています。
ゾウ

アフリカゾウやアジアゾウは、象牙を目的とした密猟や、農地開発による生息地の減少・分断の影響を強く受けています。
スマトラゾウのように、開発が急速に進む地域に生息する種では、特に深刻な状況が報告されています。

ウミガメ

アカウミガメをはじめとするウミガメの仲間は、産卵場所となる砂浜の開発や海洋汚染、混獲、気候変動によるふ化時の性比の偏りなど、複数の要因によって個体数が減少しています。プラスチックごみを餌と誤って飲み込んでしまう事故も、大きな問題として指摘されています。
コガシラネズミイルカ

コガシラネズミイルカは、メキシコのカリフォルニア湾北部にのみ生息する小型のイルカです。残り10頭と予測されており、最も絶滅の危機に瀕している生き物として知られています。
漁業で使用される刺し網に誤って絡まる混獲が主な脅威となっていたり、他には珍味として高級素材として密猟され他結果、現在では絶滅の危機に瀕しています。
生息域が非常に狭いことに加え、混獲による死亡が続いていることから、世界で最も絶滅が危惧されている海洋哺乳類の一つです。
日本にも絶滅危惧種はいる?
日本国内にも、世界的に見て希少な絶滅危惧種が数多く生息しています。ここでは代表的な3種を紹介します。
イリオモテヤマネコ

沖縄県の西表島にのみ生息するイリオモテヤマネコは、推定生息数が約100頭とされる、日本を代表する絶滅危惧種です。
狭い離島の中で独自の進化を遂げ、泳ぎが得意で魚も捕食するなど、他のネコ科動物にはない特徴を持っています。
交通事故や、適切に管理されていない飼い猫からの感染症が、個体数減少の要因として懸念されています。
ツシマヤマネコ

長崎県の対馬にのみ生息するツシマヤマネコも、イリオモテヤマネコと並ぶ日本固有の希少なネコ科動物です。生息数はおおむね80〜110頭程度と推定されており、1994年には国内希少野生動植物種に指定されました。交通事故や生息地の変化、感染症などが脅威となっています。
ヤンバルクイナ

沖縄島北部のやんばる地域にのみ生息する、飛べない鳥として知られるヤンバルクイナも、絶滅の危機にある固有種です。
外来種であるマングースの北上に伴って生息数が減少しましたが、マングースの防除事業が進んだことで、近年は生息数が回復傾向にあると報告されています。
絶滅危惧種を守るために行われていること

生息地を守る
森林や湿地、サンゴ礁といった生息地そのものを保全することは、絶滅危惧種を守るうえで最も基本となる取り組みです。国立公園や鳥獣保護区の指定、違法な伐採・開発の規制などを通じて、動物たちが本来の環境で暮らし続けられるようにする活動が各地で進められています。
繁殖・保全活動
動物園や保護センターでは、絶滅の危機にある種を人の手で繁殖させ、個体数を増やす取り組みが行われています。野生下では出会いにくくなったペア同士を人工的にマッチングしたり、繁殖技術を研究したりすることで、種の存続を支えています。
密猟・違法取引を取り締まる
象牙やサイの角、センザンコウのうろこなど、違法に取引される野生生物の製品を取り締まる法整備や、国境を越えた取引を規制する国際的な枠組みづくりも進められています。密猟のパトロール強化や、取引ルートの摘発なども重要な取り組みのひとつです。
野生復帰・再導入
保護増殖によって数を増やした個体を、あらためて野生の環境に戻す「野生復帰」の取り組みも各地で行われています。飼育下で繁殖させた個体を訓練し、段階的に自然の中で暮らせるようにしていく、長い時間のかかる取り組みです。
国際的な取り組み
絶滅危惧種の保全は、一国だけの努力では成し遂げられません。ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)による国際取引の規制や、生物多様性条約に基づく各国の協力など、国境を越えた枠組みのもとで保全活動が進められています。
私たちにできることは?

絶滅危惧種の保護というと、専門家や政府による大がかりな取り組みをイメージしがちですが、私たち一人ひとりにもできることがあります。
絶滅危惧種について知る
まずは、どんな動物がどんな理由で絶滅の危機にあるのかを知ることが、すべての出発点になります。図鑑やニュース、動物園・水族館の展示などを通じて関心を持つことが、次の行動につながっていきます。
環境に配慮した商品を選ぶ
熱帯林の減少につながる原材料を使った製品を避けたり、持続可能な漁業で獲られた水産物を選んだりするなど、日々の買い物の中でできる選択もあります。認証マークのついた商品を意識して選ぶことも、間接的に生息地の保全につながります。
野生動物をペットにする前に考える
珍しい野生動物をペットとして飼いたいという気持ちが、違法な密猟や取引の需要を生んでしまうことがあります。ペットを迎える際は、その動物がどのような経緯で流通しているのかを確認し、慎重に考えることが大切です。
野生動物にむやみに餌を与えない
善意のつもりで野生動物に餌を与える行為が、かえって自然な行動パターンを崩したり、人間への依存を招いたり、病気の感染リスクを高めたりすることがあります。野生動物とは、適切な距離感を保って接することが望ましいとされています。
保全活動を支援する
野生動物保護団体や動物園・水族館の保全プロジェクトへの寄付、募金つき商品の購入なども、絶滅危惧種を支える具体的な方法のひとつです。金額の大小にかかわらず、継続的な支援が保全活動を支えています。
正しい情報を広める
SNSや会話の中で、絶滅危惧種に関する正確な情報を周囲に伝えることも、立派な貢献のひとつです。関心を持つ人が増えるほど、保全活動への理解や支援の輪も広がっていきます。
絶滅危惧種についてよくある疑問

絶滅危惧種とレッドリストは同じ?
厳密には同じものではありません。レッドリストは、絶滅の危険度に応じてすべての評価対象種をランク分けした一覧そのものを指し、その中で特に危険度が高いとされるカテゴリー(CR・EN・VU)に分類された種を、一般的に「絶滅危惧種」と呼んでいます。
絶滅危惧種は何種類いる?
IUCNのレッドリストでは、これまでに17万種を超える生物が評価されており、そのうち4万種以上が絶滅危惧種として記載されています。
ただし、地球上にはまだ評価が行われていない種が数多く存在するため、実際にはさらに多くの種が絶滅の危機にあると考えられています。
絶滅危惧種が絶滅するとどうなる?
ある種が絶滅すると、その種が担っていた生態系での役割(他の生物の餌になる、種子を運ぶ、生息環境を維持するなど)が失われ、生態系全体のバランスが崩れる可能性があります。
一つの種の絶滅が、連鎖的に他の種へも影響を及ぼすことがあるため、生物多様性の観点からも大きな損失とされています。
絶滅危惧種は増やせる?
保全活動によって個体数が回復し、レッドリストのランクが引き下げられた例も実際にあります。生息地の保護や密猟の取り締まり、繁殖・野生復帰の取り組みなどを地道に続けることで、絶滅危惧種から回復させることは十分に可能です。
ヤンバルクイナのように、外来種対策の進展によって生息数が回復傾向を見せている例もあります。
日本の絶滅危惧種は?
日本国内では、環境省のレッドリストにイリオモテヤマネコやツシマヤマネコ、ヤンバルクイナをはじめ、多くの固有種・希少種が掲載されています。
環境省のレッドリストでは、絶滅危惧種とされる種は3,000種を大きく超えており、身近な自然の中にも多くの希少な生き物が暮らしていることがわかります。
※環境省のレッドリストは現在も見直しが進められており、分類群ごとに新しい評価結果が順次公表されています。
絶滅危惧種とは?まとめ
絶滅危惧種とは、まだ完全に絶滅したわけではないものの、対策をしなければ近い将来絶滅してしまうおそれが高いと評価された生物のことです。
生息地の減少や乱獲、気候変動、外来種、環境汚染など、その原因は複合的であり、パンダやゴリラ、サイといった有名な動物だけでなく、日本固有のイリオモテヤマネコやヤンバルクイナなど、身近な自然の中にも多くの絶滅危惧種が存在しています。
一つひとつの種の絶滅は、生態系全体のバランスにも影響を及ぼしかねません。専門家による保全活動はもちろん重要ですが、絶滅危惧種について知り、日々の選択を少し見直すことなど、私たち一人ひとりにできることも確かにあります。
まずは身近なところから、動物たちとの関わり方を考えてみてはいかがでしょうか。







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