最近、ニュースなどでクマの出没や人身被害について目にする機会が増えました。
クマによる人身被害は以前から発生していますが、近年は人の生活圏や市街地での出没も問題となっています。
秋になると、ニュースで「クマが住宅地に出没した」「山でクマが目撃された」といった話題をさらに目にする機会が増えます。
なぜ、秋になるとクマの出没が増えるのでしょうか?
その背景には、クマが冬に備えて栄養を蓄えることや、山にある餌の状況などが関係しています。
環境省も、秋になるとドングリなどの餌が不足した地域で、クマが人の生活圏に出没して被害が増える傾向があると説明しています。
この記事では、秋にクマが人里へ近づく理由から、遭遇を避けるためにできること、もし出会ってしまった場合の対処法まで、公的資料をもとにご紹介します。
について、環境省などの情報をもとに解説します。
この記事で紹介する対処法は、クマとの遭遇時に被害を最小限にするための基本的な考え方です。地域によって対応が異なる場合があるため、登山やキャンプなどに出かける際は、訪れる地域の自治体や施設が発信する最新情報も確認してください。
日本に生息するクマは2種類
日本に生息しているクマは、大きく分けて「ツキノワグマ」と「ヒグマ」の2種類です。
ヒグマは北海道に生息し、ツキノワグマは本州と四国に生息しています。
ただし、ツキノワグマは九州では絶滅したと考えられており、四国でも現在は剣山山系とその周辺の限られた地域に少数が生息しています。
ツキノワグマ
ツキノワグマは、胸の部分にある白い月形の模様が特徴的なクマです。
本州の広い範囲に生息しているほか、四国にも非常に少ないながら生息しています。
一方で、九州のツキノワグマはすでに絶滅したと考えられています。
四国のツキノワグマについては、2024年度の調査で26頭が識別されました。
現在も絶滅の危険性が高い地域個体群として保全活動が続けられています。
ツキノワグマは比較的小型のクマですが、「小さいから危険ではない」という意味ではありません。
遭遇した場合には、ヒグマと同様に刺激せず、落ち着いて距離を取ることが重要です。
ヒグマ
ヒグマは北海道に生息する大型のクマです。
ツキノワグマよりも大型になる個体が多く、非常に高い運動能力を持っています。
北海道を訪れて登山やキャンプなどをする場合は、ヒグマの生息地域であることを意識して行動する必要があります。
ヒグマに限らず、クマは食べ物や生ごみなどに執着するようになることがあります。
そのため、野外活動では「クマを見つけたらどうするか」だけではなく、そもそもクマを近づけないことも重要です。
なぜ秋になるとクマの出没が増えるの?
秋は、クマにとって冬を迎える前の重要な時期です。
特にツキノワグマでは、ブナやミズナラなどのドングリが秋の重要な餌になります。
森林総合研究所によると、ツキノワグマは植物を中心とした食性を持ち、秋にはブナ科樹木の堅果、いわゆるドングリが重要な餌資源になります。
では、山に餌があればクマは人里へ来ないのでしょうか?
必ずしもそうとは限りません。
秋はクマが冬に備えて栄養を蓄える時期
クマは秋に食物を多く摂取し、冬に備えて体に脂肪を蓄えます。
特にメスのクマでは、秋に十分な栄養を取れるかどうかが、その後の繁殖にも関係します。
森林総合研究所によると、クマは夏に交尾した後、受精卵の発育を一時的に休止する「着床遅延」という特徴を持っています。
秋に十分な栄養を蓄えたメスでは、その後胚の発生が再開し、冬ごもり中に出産します。
つまり秋は、クマにとって単に「冬眠前だから食べる」というだけではなく、冬を越すための重要な時期なのです。
山の餌が不足すると行動範囲が広がることがある
秋のクマの行動を考えるうえで重要なのが、山にある餌の量です。
ドングリなどの餌が豊富な年もあれば、不作になる年もあります。
餌が不足した地域では、クマが食べ物を探して広い範囲を移動することがあり、その結果として人の生活圏に近づくケースがあります。
環境省も、秋にドングリなどの餌が不足した地域では、クマが人の生活圏に出没し、被害が増える傾向があると説明しています。
ただし、「秋になれば必ずクマが人里へ出てくる」というわけではありません。
クマの出没には、餌の状況だけでなく、生息状況や地域の環境など複数の要因が関係します。
クマが人里に近づくのは餌不足だけが理由ではない
クマが生活圏に現れる背景には、山の餌だけでなく、人間の生活圏にある食べ物も関係します。
柿や農作物がクマを引き寄せることがある
人里には、クマにとって食べ物になるものがあります。
たとえば、収穫されずに残った果実や農作物などです。
政府広報オンラインでは、放置された果実や農作物、生ゴミなどがクマを引き寄せる要因として紹介されています。
特に秋は柿などの果実が実る時期でもあるため、クマが食べ物を求めて住宅地などに近づく可能性があります。
一度食べ物を見つけると繰り返し現れることも
人里で簡単に食べ物を得られる状況が続くと、クマがその場所に繰り返し現れる可能性があります。
政府広報オンラインでも、人家の周囲などで食べ物を得たクマが、その場所を覚えて再び出没するおそれがあると説明されています。
そのため、クマを人里へ呼び寄せないためには、山にある餌だけでなく、人間側の環境を見直すことも重要です。
藪や草むらがクマの移動場所になることも
住宅地や農地の周辺に草木が生い茂っていると、クマが身を隠しながら移動しやすくなる場合があります。
政府広報オンラインでは、クマが身を隠せる藪などを刈り払い、見通しを良くすることも対策の一つとして紹介されています。
クマに出会わないためにできる6つのこと
クマとの事故を防ぐためには、遭遇した後の対処よりも、できるだけ出会わないことが大切です。
環境省は、クマの生息地域などで行動する際のポイントとして、次のような対策を紹介しています。
1.出没情報を事前に確認する
登山やキャンプ、ハイキングなどに出かける前に、訪れる地域のクマ出没情報を確認しましょう。
自治体や警察、施設などから出没情報が発信されている場合があります。
特に直近でクマの出没が相次いでいる地域では、
「せっかく予定したから」
と無理に入山するのではなく、コース変更や中止も検討しましょう。
2.できるだけ一人で行動しない
複数人で行動することも、クマとの遭遇を避けるための対策になります。
特に見通しの悪い山道などでは、周囲の状況を確認しながら行動しましょう。
どうしても一人で行動する場合は、クマ避けの対策や撃退対策をしっかり行っておきましょう。
3.早朝や夕方は特に注意する
各都道府県の情報で早朝や夕方〜夜間にかけて遭遇しやすいと発表されています。
ただし、クマが活動する時間帯は季節や地域、個体によって異なるため「この時間なら絶対に安全」と考えるのではなく、出没情報がある場所では注意しておくことが大切です。
4.鈴やラジオなどで人の存在を知らせる
クマとの突然の遭遇を避けるため、鈴やラジオなど音が出るものを利用して、人間がいることをクマに知らせる方法があります。
ただし、音を出していれば必ずクマに遭遇しないわけではありません。
音を出しながら歩いていても、見通しの悪い場所では周囲をよく確認しましょう。
5.クマの痕跡を見つけたら引き返す
足跡、フン、食べ跡など、クマが近くにいる可能性を示す痕跡を見つけた場合は、無理に先へ進まないことが大切です。
「まだクマを見ていないから大丈夫」
と考えず、静かにその場から離れましょう。
6.食べ物や生ごみを放置しない
キャンプや登山で出た食べ物や生ごみは、クマを引き寄せる原因になることがあります。
食べ物やゴミを野外に放置せず、ニオイが漏れないよう適切に管理しましょう。
キャンプ場などでは、施設が用意している食品ロッカーなどを利用することも大切です。
クマを遠くに見つけたらどうする?
では、実際にクマを見つけてしまった場合はどうすればいいのでしょうか。
まず重要なのは、慌てないことです。
遠くにクマがいることに気づいた場合は、クマを刺激しないようにしながら、その場から静かに離れましょう。
やってはいけないこと
- 走って逃げる
- 大声を出す
- クマに近づく
- 写真や動画を撮るために近づく
- フラッシュを使って撮影する
- 石や物を投げる
クマを驚かせたり刺激したりすると、攻撃につながる可能性があります。
「せっかくクマを見つけたから写真を撮りたい」と思っても、近づくのは絶対にやめましょう。
近くでクマと遭遇したらどうする?
最も怖いのが、歩いているときに突然近くでクマと遭遇してしまうケースです。
この場合も、慌てて走って逃げることは避けましょう。
クマを刺激しないよう、落ち着いてゆっくりと距離を取ります。
クマに背を向けて走らない
クマに遭遇すると、本能的に走って逃げたくなるかもしれません。
しかし、環境省はクマに背を向けて走って逃げることを避けるよう呼びかけています。
クマを見ながら、慌てずゆっくりと後退して、その場から離れましょう。
クマとの間に障害物を入れる
人の生活圏などでクマと遭遇した場合は、可能であれば、
- 車
- 電柱
- 木
- 建物
などをクマと自分の間に挟むようにして距離を取りましょう。
ただし、障害物を探すためにクマへ近づくような行動はしないでください。
クマに遭遇したときに「やってはいけないこと」
ここまでの内容を一度整理してみましょう。
- 走って逃げない
クマを見つけた瞬間に走り出すのは避けましょう。 - 大声で威嚇しない
「大声を出してクマを追い払えばいい」という考え方は危険です。
クマを刺激する可能性があるため、大声で威嚇することは避けましょう。 - 物を投げない
石や荷物などをクマに投げつけて刺激することも避けます。 - 写真を撮るために近づかない
クマを見つけても、写真や動画を撮影するために近づいてはいけません。 - 背中を向けて逃げない
クマを刺激しないように、落ち着いて距離を取りましょう。
「死んだふり」をすれば助かる?
昔から、
「クマに襲われたら死んだふりをすればいい」
という話を聞くことがあります。
しかし、クマと遭遇した際に最初から死んだふりをすることを基本的な対処法として考えるのは適切ではありません。
まずは、
慌てない → 刺激しない → ゆっくり距離を取る
という行動を優先します。
そして、至近距離で突然襲われるなど、避けられない状況になった場合には、防御姿勢を取って被害を最小限にすることが重要です。
クマに襲われそうになったらどうする?
どれだけ注意していても、至近距離で突然クマと遭遇してしまう可能性はあります。
そして、クマが攻撃してきた場合には「絶対に助かる方法」はありません。
環境省は、突発的に襲われた場合の対応として、両腕で顔や頭部を覆い、うつ伏せになるなどして重大な被害を最小限にすることを示しています。
防御姿勢を取る
襲われそうになった場合は、
- うつ伏せになる
- 両腕で顔や頭を守る
- 首を守る
- できるだけ体の重要な部分を守る
ことを意識します。
これはクマを撃退するための方法ではありません。
攻撃された場合に、頭部や顔などへの重大なダメージを少しでも減らすための最終手段です。
クマ撃退スプレーは効果がある?
クマの生息地域へ登山やキャンプなどに出かける場合、クマ撃退スプレーを携帯する方法もあります。
クマ撃退スプレーは、クマの顔付近に刺激性の成分を噴射して、接近を阻止するために使用するものです。
ただし、持っているだけで安全になるわけではありません。
いざというときに使用できるよう、
- どこに携帯するか
- 安全装置の外し方
- 噴射方法
- 使用可能距離
- 使用期限
- 製品の性能
などを事前に確認しておくことが大切です。
また、環境省は2026年8月、クマ撃退スプレーについて、成分や濃度、噴射距離・時間、安全装置などに関する推奨要件を公表しています。

クマの生息地域に入る場合は、地域の情報とあわせて、信頼できる製品を適切に準備しましょう。
子グマを見つけても絶対に近づかない
山の中などで子グマを見つけた場合、
「かわいい!」
と思って近づきたくなる人もいるかもしれません。
しかし、これは非常に危険です。
子グマの近くには母グマがいる可能性があります。
子どもを守るために母グマが攻撃的な行動を取る可能性もあるため、子グマを見つけても近づかず、速やかにその場から離れましょう。
クマを見つけても「追い払おう」としない
クマを見つけると、
「人間がいることを知らせて追い払おう」
と考えるかもしれません。
しかし、近距離で大声を出したり、物を投げたりするなど、クマを刺激する行動は避ける必要があります。
クマを見つけたら、
「追い払う」のではなく「刺激せずに距離を取る」
という考え方を覚えておきましょう。
キャンプでは食べ物の管理が重要
クマによる被害を防ぐためには、人間側がクマを引き寄せないことも重要です。
特に注意したいのが食べ物とゴミです。
食べ物のニオイを覚えたクマが、キャンプ場などに繰り返し現れる可能性があります。
そのため、
- 食べ物をテントの外に放置しない
- 生ごみを放置しない
- 食べ残しをそのまま捨てない
- ニオイが漏れないように管理する
- キャンプ場の食品保管設備を利用する
- ゴミは決められた方法で処理する
といった対策を行いましょう。
クマを危険な存在にしないためにも、人間側がクマに食べ物を与える状況を作らないことが大切です。
クマに遭遇したときの対処法まとめ
最後に、クマに遭遇した場合の行動をまとめます。
- 遠くにクマを見つけた場合
落ち着いて、その場から静かに離れる。 - 近くにクマがいる場合
慌てず、クマを刺激しないようにゆっくり距離を取る。 - クマとの間に障害物を入れられる場合
車や建物、電柱などを間に挟むようにして距離を取る。 - クマが襲ってきた場合
うつ伏せになり、両腕で顔や頭部を守るなどして被害を最小限にする。
そして、覚えておきたいのが次の5つです。
- 走らない
- 大声で威嚇しない
- 物を投げない
- 近づかない
- 慌てず距離を取る
まとめ|秋はクマの生態を知って遭遇を避けよう
秋になるとクマの出没が増える背景には、冬に備えて栄養を蓄えるクマの生態と、山にある餌の状況などが関係しています。
特にツキノワグマにとって、ドングリなどのブナ科樹木の堅果は秋の重要な餌です。餌が不足した地域では、食べ物を探して広い範囲を移動することがあり、人の生活圏への出没につながる場合があります。
一方で、クマが人里に近づく理由は餌不足だけではありません。
放置された果実や農作物、生ゴミなど、人間の生活圏にある食べ物がクマを引き寄せることもあります。
秋に山などへ出かけるときは、事前にクマの出没情報を確認し、できるだけ複数人で行動するなど、遭遇を避けるための対策をしておきましょう。
もしクマに出会ってしまった場合は、走って逃げたり、大声を出したりせず、クマを見ながら静かにゆっくり距離を取ることが基本です。
クマの生態を知り、人間側もできる対策をすることが、人とクマの双方にとって安全な環境をつくることにつながります。
- 環境省「クマに関する各種情報・取組」
- 環境省「クマ類の出没対応マニュアル-改訂版-」
- 環境省「石原大臣閣議後記者会見録(令和8年9月15日)」
- 政府広報オンライン「クマに出会わないために。知っておきたい対策」
- 森林総合研究所「クマはドングリをいつ見ているのか」



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