日本の山林や草原などに生息するニホンジカ。奈良公園のシカのように人間の近くで暮らす姿を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
しかし、近年、日本ではニホンジカの生息数や分布域の拡大が問題となっています。
シカが増えることで、農作物が食べられたり、森林の植物が減少したりするなど、自然環境や人間の暮らしにも影響が及んでいます。
では、日本には現在、何頭ほどのニホンジカが生息しているのでしょうか。
この記事では、環境省が2026年10月30日に公表した最新の推定個体数をもとに、ニホンジカの生息状況や増加した理由、農林業・生態系への影響について解説します。
ニホンジカは日本に何頭いる?最新の推定個体数

環境省が2026年10月30日に公表した調査結果によると、2025年3月末(令和6年度末)時点の日本全国におけるニホンジカの推定個体数は、約310万頭です。
この数字は北海道と本州以南を合わせた全国の推定値であり、統計的な推定によって算出されています。
2024年度末の推定個体数は約310万頭
今回公表された推定結果は、次のとおりです。
| 調査対象 | 推定個体数(中央値) | 90%信用区間 |
|---|---|---|
| 全国(北海道・本州以南) | 約310万頭 | 約114万〜843万頭 |
| 本州以南 | 約236万頭 | 約88万〜631万頭 |
※2025年3月末時点の推定値。環境省が2026年10月30日に公表した資料に基づく。
注目したいのは、全国の推定個体数が約310万頭に達していることです。
ただし、90%信用区間には大きな幅があります。これは、実際の個体数を一頭ずつ数えた結果ではなく、捕獲数などのデータを用いて統計的に推定しているためです。
そのため、約310万頭という数字は実際の生息数を完全に把握したものではなく、現在の生息状況を示す推定値として理解する必要があります。
ニホンジカの個体数はどのように調べている?
ニホンジカは広い地域に分布しているため、全国の個体数を直接数えることは簡単ではありません。
そこで環境省では、捕獲数などの情報をもとに、統計モデルを使って個体数を推定しています。
主に「ハーベストベースドモデル」を基本とした階層ベイズモデルという統計手法が用いられています。
これは、捕獲された個体数などのデータを利用し、個体数の変化を推定する方法です。
なお、捕獲数などの情報は翌年度に集計されるため、推定結果の公表には時間差があります。
今回の調査結果も、2024年度末時点の生息状況を対象としたものです。
なぜニホンジカは増えているのか?

ニホンジカの生息数や分布域が拡大した背景には、複数の要因が関係していると考えられています。
環境省が紹介している主な要因は、次のとおりです。
1. 狩猟者の減少によって捕獲圧が低下した
ニホンジカは、明治時代に乱獲によって個体数が大きく減少しました。
その後、捕獲規制などによって個体数が回復する一方、近年は狩猟者の減少などによって捕獲圧が低下したことも、増加の要因として考えられています。
シカは繁殖力が比較的高い動物です。
捕獲される個体が少なくなれば、繁殖によって個体数が増加しやすくなります。
2. 積雪量の減少
積雪量の減少も、ニホンジカの生息状況に関係する要因の一つです。
雪が多い地域では、冬場に餌を確保しにくくなり、移動や採食が難しくなることがあります。
一方、積雪が少なくなると冬を越せる個体が増え、生息域の拡大につながる可能性があります。
3. 耕作放棄地や里山の環境変化
中山間地域では、人口減少や農業の担い手不足などによって、耕作放棄地が増加しています。
人間による管理が行われなくなった土地では、草木が生い茂り、ニホンジカが餌を得たり、身を隠したりしやすい環境になる場合があります。
また、造林や草地造成などによって餌となる植物が増えたことも、過去の増加要因として挙げられています。
こうした環境の変化が、ニホンジカの生息に適した場所を広げてきたと考えられています。
ニホンジカが増えるとどのような影響がある?

ニホンジカは日本にもともと生息している在来種です。
しかし、生息密度が高くなりすぎると、自然環境や人間の暮らしにさまざまな影響を与えることがあります。
ここでは、代表的な4つの影響を紹介します。
1. 農作物への食害
ニホンジカによる影響の一つが、農作物への食害です。
シカは草や木の葉だけでなく、農作物も食べるため、農地に侵入すると農家に大きな被害を与えることがあります。
例えば、稲や野菜、果樹などが食べられるほか、農地に侵入する際に作物を踏み荒らすケースもあります。
農林水産省が公表した2024年度の野生鳥獣による農作物被害状況では、シカによる被害額は約74億円でした。
これは前年度から約4億5,000万円増加した金額です。
野生鳥獣全体による農作物被害額が約183億円であることを考えると、シカによる被害は大きな割合を占めています。
2. 森林や樹木への被害
ニホンジカは、森林に生えている植物や樹木の葉、樹皮などを食べます。
生息密度が高い地域では、若い木や植林した苗木が食べられ、十分に成長できなくなることがあります。
また、樹皮を食べられることで樹木が枯れてしまうケースもあります。
特に、樹木の幹を一周するように樹皮が剥がされると、木が枯れる原因になります。
こうした被害は、森林の再生や林業にも影響を及ぼします。
林野庁によると、2024年度の野生鳥獣による森林被害面積は4,256haであり、そのうちシカによる被害が全体の約6割を占めています。
3. 生態系や植物への影響
ニホンジカが増えると、森林に生えている植物の種類や量にも変化が生じます。
シカは植物を食べるため、特定の植物が集中的に食べられると、その植物が減少する可能性があります。
特に、繁殖力が低い植物や成長に時間がかかる植物は、食害によって個体数が減少することがあります。
また、地面に生えている植物が減ることで、昆虫や小動物など、植物を利用する生き物にも影響が及ぶ可能性があります。
尾瀬や南アルプスなどの国立公園でも、シカによる植生への影響が問題となっています。
ニホンジカが増えることは、単に植物が食べられるという問題だけではなく、森林全体の生態系に関わる問題なのです。
4. 土壌流出や土砂災害のリスク
森林の下層には、草や低木などの植物が生えています。
これらの植物は、雨が地面に直接当たるのを和らげたり、土壌を保持したりする役割を担っています。
しかし、ニホンジカによる食害で下層植生が減少すると、地面がむき出しになることがあります。
その結果、雨によって土壌が流れやすくなり、土壌流出につながる可能性があります。
森林の植生が失われることは、土壌の保全や森林の持つ水源涵養機能にも関係するため、注意が必要です。
ニホンジカの増加を防ぐために行われている対策

ニホンジカによる被害を抑えるため、日本ではさまざまな対策が進められています。
捕獲による個体数の管理
代表的な対策が、狩猟や許可に基づく捕獲などによる個体数の管理です。
環境省と農林水産省は、2013年にニホンジカとイノシシの個体数を10年後の2023年度までに半減させる目標を設定しました。
しかし、目標達成が難しい状況となったため、2023年9月に期限を2028年度まで延長しています。
今後も個体数の推移を把握しながら、地域ごとの状況に応じた捕獲対策を進めることが重要です。
防護柵による農地や森林の保護
農地や植林地への侵入を防ぐため、防護柵の設置も行われています。
柵によってシカが侵入できる範囲を制限し、農作物や苗木を食害から守る取り組みです。
また、植林した苗木を保護するための食害防止チューブなども活用されています。
捕獲したシカの有効活用
捕獲したニホンジカをジビエとして活用する取り組みも進められています。
食肉として利用することで、捕獲した個体を資源として活用できるほか、地域の新たな産業につながる可能性もあります。
ただし、捕獲した個体をすべて食肉として利用できるわけではありません。衛生管理や処理施設の確保など、さまざまな課題もあります。
ニホンジカは減らせばよいわけではない?適切な個体数管理が重要

ニホンジカは、日本の自然環境を構成する在来種です。
植物を食べることで植生に影響を与える一方、ほかの生き物との関係を持ちながら自然の中で暮らしています。
そのため、ニホンジカを日本からいなくすることが目的ではありません。
重要なのは、地域の自然環境や農林業への影響を考慮しながら、生息密度を適切に管理することです。
森林の植生や農作物への被害は、地域によって状況が異なります。
全国の推定個体数だけで判断するのではなく、それぞれの地域で生息状況や被害を調査し、継続的に対策を進める必要があります。
まとめ|ニホンジカの増加は自然環境全体に関わる問題
2026年10月30日に環境省が公表した最新の推定では、2025年3月末時点のニホンジカの全国推定個体数は約310万頭でした。
ニホンジカの増加や分布域の拡大は、農作物への食害だけでなく、森林の衰退や植物の減少、土壌流出など、さまざまな問題につながっています。
一方で、ニホンジカは日本に古くから生息している在来種でもあります。
大切なのは、シカを単純に害獣として扱うのではなく、人間の暮らしと自然環境の両方を守るために、適切な個体数管理を続けていくことです。
今後も最新の推定個体数や地域ごとの被害状況を確認しながら、ニホンジカと人間が共存できる環境について考えていく必要があります。



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